Autodesk Fusion:インボリュート歯車の理解と正確なモデルの作成法(第 3 回目)

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はじめに

第 2 回で作成した創成図を使って、多角形誤差のない滑らかな歯形を作成する方法を解説します。この記事では、特に歯元隅肉曲線の正確な作図について、CAD の機能を活用した独自の手法をご紹介します。

 

前提条件

  • 第 1 回第 2 回でラックの定義と創成原理を理解していること
  • 創成図が完成していること(下図に示すモデルファイルを添付します)
  • 歯数 20、モジュール 1、圧力角 20° の設定で進めます

 

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1. インボリュート曲線の作図

 

基本的な手順

ステップ 1: 準備作業

  • 創成図のボディを 1 個ずつ表示して、見やすくします
  • まずはボディ 11 または 12 を選択してください
  • 新しいスケッチを作成します

 

ステップ 2: 基礎円の作図
基礎円を計算します:
基礎円直径 = 歯数 × モジュール × cos (圧力角)
例: 20 × 1 × cos (20°) = 18.794 mm

 

ステップ 3: 接線の作図

  1. ラックの切れ刃(斜辺)から基礎円周に接する線を描きます
  2. 次の幾何拘束を設定:
    • 斜辺と線:「一致」「直交」
    • 線と基礎円:「接線」

 

rack (1) _20deg-2.png

 

 

ステップ 4: 複数点の取得

  • 異なる姿勢のラックに対して同じ作業を繰り返します
  • 8~10 点程度を取得するのが理想的です(練習では 5 点程度でも OK)


rack (1) _tangent.png

ステップ 5: インボリュート曲線の起点計算

  1. 接線の接点と基礎円中心を結ぶ半径線を作図
  2. 接線の長さと基礎円半径から角度を計算:
    角度 = 接線の長さ ÷ 基礎円半径 (ラジアン)

 

パラメータを活用した計算例

  1. 接線の接点 m と基礎円中心 o を結ぶ半径線 mo を作図します。
  2. 寸法コマンドで、接線の長さと、基礎円直径を表示させます。寸法値の下にマウスを持ってくると d14 のようにして、記号や数式が表れることを確認します。ここでは基礎円半径が d13 とします。
  3. 接線の長さ mq と同じ円弧長さとなる角度を求めます。
    • 基礎円上に、まず目分量で半径線 po を書きます。
    • d コマンドで寸法入力にします。
    • 2 本の半径線 po、mo をピックすると表れる角度入力欄に計算式 [d14/(d13/2))*1rad] を入れます。この例では d14 = 4.158、 d13 = 18.794 ですから、角度は 4.158/(18.794/2) = 0.442 rad ≒ 25.35 deg となります。
    • 点 p は点 m から、角度 25.35 deg の位置にあります。

 

rack (1) _invstart-3.png

 

image.png

 

 

フィット点スプラインで通過点を接続して、インボリュート曲線が完成します。

 

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効率的な作図方法
より素早く接線を求める方法をご紹介します:

  1. 基本設定
    • 新しいスケッチを作成
    • 基礎円を作図
  2. ラック切れ刃のコピーと回転
    • 創成図から片歯分の切れ刃を選択してコピー
    • コピーした図形を 90° 回転させて配置
  3. 拘束の設定
    • 回転した線分と基礎円の間で「接線拘束」
    • 線分の他端を「修正」→「延長」で元図形に当接
    • 「直交拘束」を設定
  4. 完成
    • 接線の先端をフィット点スプラインで接続

 

創成図から歯形にタッチしているラックの切れ刃(斜辺)の片歯分を選択し、コピーします。

 

inv_spli_2.png

 

 

コピーした図形を 90° 回転させ、基礎円とコピー元の図形に重ならない位置に配置します。

 

inv_spli_3.png

 

 

回転したすべての線分と、基礎円との間で「接線拘束」をかけます。接線は固定されていないので、拘束を満足するように(自動的に)位置を変えます。基礎円との接点につなぐ必要はありません。

 

inv_spli_4.png

 

 

接線拘束の終わった線分の他端を「修正」と「延長」で元の図形に当接させ、「直交拘束」をかけます。この時、接線は直交拘束と接線拘束を満足するように動きます。線の色が青以外に変わり、位置が確定したことを確認します。

 

inv_spli_6.png

 

 

接線の先端をフィット点スプラインで接続して完成です。基礎円の起点付近は難しいですが、上手く行けばこれだけで起点も取得可能です。

 

inv_spline.png

 

 

 

2. 歯元隅肉曲線(トロコイド曲線)の作図

 

歯車の品質を左右する重要な部分です。多くの歯車作成ツールでは、この部分の計算が省略されがちですが、正確な歯車には必須の要素です。

 

z20_rack_all.png

 

 

ステップ 1: ラック外形線の取り込み

  1. 新しいスケッチを作成
  2. 「投影取り込み」→「プロジェクト」でボディの外形線を取り込み
  3. 表示される白丸(円弧中心)に注目

 

z20_rack_all_filletCenter.png

 

 

ひとつのラックだけ取り出したものが下図です。白丸は Fusion の機能で、円弧中心を示しています。円弧中心は、歯先(図の下)に 2 つありますが、先ほどインボリュート曲線を描いたほうの切れ刃の先にある方を選んでください。

 

rack_fillet_exp.png

 

 

ステップ 2: 歯先丸み中心の軌跡作成

  1. インボリュート曲線側の切れ刃先にある白丸を選択
  2. 白丸の動きをフィット点スプラインで接続
  3. これが「ラック歯先丸み中心の軌跡」(トロコイド運動)になります

 

fillet_center.png

 

 

ステップ 3: 歯元隅肉曲線の作成

  1. スケッチの「オフセット」機能を使用
  2. 歯先丸み半径分(0.38mm)離れた平行曲線を作成
  3. これが実際の「歯元隅肉曲線」です

 

para_trochoid.png

 

 

先のインボリュート曲線と合わせて書くと、下図のようになります。インボリュート曲線と歯元隅肉曲線がきれいにつながっていることを確認してください。

 

精度向上のコツ
Fusion のオフセット機能には 5~10μm の誤差があるため、以下の対策をお勧めします:


対策 A: スケールアップ法

  • 中心軌跡を 10 倍に拡大コピー
  • 10 倍のオフセットで曲線を求める
  • 1/10 に縮小して元に戻す

対策 B: 専用スクリプトの使用

  • より正確なオフセット計算が可能(以下筆者の Web サイトを参照)

 

two_curves.png

 

 

3. 完成した歯車の確認

 

曲線の接続確認
インボリュート曲線と歯元隅肉曲線がスムーズに接続していることを確認してください。正確に作図できていれば、自然につながります。


多角形誤差の比較

  • 創成図そのまま: 多くの平面で構成され、多角形誤差が顕著
  • 曲線化後: 滑らかな歯面を実現

実際の歯切り加工でも連続加工ではないため、似たような多角形誤差(加工目、うろこ目)が生じます。

 

lastmodel.png

 

 

下図はレンダリング結果です。奥が多角形誤差のないほうですが、直線のラックから手作業で作ったとは思えないほど歯面がきれいです。

 

render.png

 

 

 

まとめ

 

この手法の特徴: 

  • 独自性: CAD のオフセット機能を活用した歯元隅肉曲線作成は筆者考案の方法
  • 汎用性: 専用ソフトを使わずに汎用 CAD で正確な歯車が作図可能
  • 実用性: 理論に基づいた正確な歯形を実現

 

 

次回予告


次回は以下の内容をお届けします:

  • Fusion 付属の "SpurGear" との歯形比較
  • インボリュート作図ツールの詳細紹介

 


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