ページ下部で本記事のために作成した Fusion のデータをダウンロードすることができます。
Autodesk Fusion の標準機能である「製造ワークスペース」では、CNC フライスやマシニングセンターを使って設計したものを加工するデータを作ることができます。
この記事では、木の板から眼鏡型のストラップを切り出すまでの手順を紹介します。ちなみに下図の眼鏡ストラップの加工データは慣れると 2 分ほどで作ることができます。
■ 加工用モデルの準備
3D モデルがなくてもスケッチだけで 2D 加工データを作ることはできます。ですが、3D モデルを用意した方が材料や加工高さの設定がしやすく、ミスを防ぐことができます。20 秒ほどの手間をかけて押し出しをしておくことをオススメします。
今回は横 250mm x 縦 132mm、厚み 4.2mm の材料板と、その中に収まるメガネ ストラップのモデルを用意します。押し出しの際は結合せずに新規ボディとして押し出し、2 つのボディが重なっている状態にしておきます。
■ セットアップ(材料、座標の設定)
ワークスペースを [製造] に切り替え、[新しいセットアップ] を実行します。セットアップでは材料の大きさや加工する機械に固定する向き、加工基準となる位置を設定します。
画面に新しい設定ウィンドウが表示されます。ウィンドウ上部で [設定]、[ストック]、[ポスト処理] のタブを切り替えることができます。
[ストック] のタブで材料の大きさの設定を行います。今回は材料の板を 3D モデルで用意してあるので、[モード] を [ソリッドから] に切り替えて、材料のボディを選択します。
材料のモデルを用意していない場合は、材料サイズを数字で入力することができます。しかし、材料のどの位置でモデルを加工したいのかを設定するのに手間がかかるので、材料のモデルを用意しておくのがラクチンです。
[設定] のタブに切り替え、[ワーク座標系 (WCS)]で加工の XYZ 方向と原点を設定します。ワーク座標系は現実で材料をどこに、どの向きに置くのかに関わってきます。使用する機械の XYZ 方向と、加工したい向きをイメージしながら設定を行っていきます。
モデリングの時点で加工方向と合わせてある場合は、[モデルの方向] のままで良いですが、思い通りの向きでなかった場合は、[方向] を [X軸/平面、Z軸]に切り替えて、モデルのエッジラインや面を選択して向きを切り替えることができます。
XYZ 方向を設定できたら [ストック点] で加工原点を設定します。[ボックス点] と書かれている箇所をクリックすると、ストック(材料)の角や中点に白い丸が表示されるので、原点にしたい点を選択します。
今回のように画面上に加工したいボディと補助的に使うボディがある場合、[モデル] で加工したいボディだけを選択しておきます。
以下のような XYZ 方向の機械で材料の右奥の角を原点として加工するため、上記のように設定してください。
セットアップが完了したら、ブラウザから材料のボディを非表示にします。
■ 加工のツールパス作成
ツールは「工具」、パスは「経路」を意味します。材料を削るエンドミルやドリルがどう動くのかの工具経路を作成していきます。
板からの切り出しには [2D 輪郭] を使用するのが便利です。
下記画像にあるように [2D 輪郭] という新しいウィンドウが表示されます。設定可能な項目はたくさんありますが、「加工に使う工具」と「加工する場所」の 2 カ所を設定するだけでツールパスを作ることができます。
次に [工具] の [選択] をクリックします。[工具を選択] というウィンドウが表示されるので、工具一覧から実際に加工に使用する工具を選択します。
選択した工具の直径と形状に応じてツールパスも計算されるので、必ず直径と先端の形が一致したものを選択するようにしましょう。工具ライブラリに手元の工具を追加する手順は、前回の記事にて説明しています。
次に加工する箇所を選択します。ウィンドウ上部のタブを [形状] に切り替えて、切り出したい輪郭を選択します。まずは内側のレンズ部分の輪郭だけ削るツールパスを作ります。
選択の際に注意すべき点が 2 つあります。
- モデルの底面の輪郭を選択すること
- 選択後に表示される赤い矢印の向きを確認すること
2D 輪郭では選択した輪郭の高さで加工するため、モデルの上面の輪郭を選択した場合、材料の表面を撫でるだけになってしまいます。
選択後に表示される赤い矢印は、選択した輪郭の内側と外側どちらを工具が通るかを表しています。下図右側のように赤い矢印が空白部分ではなくモデルに入り込んで表示されている場合、削ってはいけない箇所を削ることになります。赤い矢印は矢印をクリックすることで反転させることができます。
工具と加工する場所の指定ができたらウィンドウ下部の [OK] ボタンを押すと、ツールパスが青い線で表示されます。
次に紐を通す小さな穴のパスを作ります。穴が工具に対して十分な大きさであれば 2D 輪郭で加工できますが、工具直径と幅が同じ長穴の場合はスロット加工が便利です。
工具は一度選択すると自動的に次のツールパスでも同じものが選択されるので、工具を変更しない限り再度選択する必要はありません。[形状] で加工箇所を選択して [OK] を押すだけでツールパスが生成されます。
最後にもう一度 [2D 輪郭] で一番外側の輪郭を選択して切り出すツールパスを作成します。これで一旦最低限必要なツールパスを出すことができました。
■ シミュレーション
[アクション] の中の [シミュレーション] で作成したツールパスの加工シミュレーションを確認することができます。画面下部に再生ボタン [▷] やその下のバーを調整することで早送りと巻き戻しの調整ができます。
シミュレーション ウィンドウで表示項目の非表示設定のほか、[統計] タブに切り替えることで加工時間の概算を見ることもできます。
シミュレーションを終了するには、ウィンドウ下部の [シミュレーションを終了] 、またはキーボードの Esc キーを押してください。
■ ツールパスの修正
シミュレーションでの動きを見ると
- 負荷が高くて振動しそう
- 加工時間が長い
- 材料から形状が完全に切り離されるので飛んでいきそう など
様々な修正点が見えてきます。ツールパスを調整し、再度シミュレーションで確認といった工程を繰り返して最適なツールパスを作っていきます。
作成したツールパスはブラウザから右クリックして [編集] で設定を変更することができます。2D 輪郭を編集していきます。
タブを付けて切り出した部分が飛んでいかないようにする
[形状] タブの中に [タブ] というチェックボックスがあるので有効化します。加工品を完全に切り離さないように小さな削り残しを自動で作ることができます。
デフォルト設定では数が多いので [タブ距離] の値を大きくしたり、後で切り離しやすいようにタブのサイズを小さくしたり調整して [OK] ボタンを押します。ツールパスが再生成され、削り残しを作るために途中でちょっと浮くようなツールパスになります。
一度に全部削らずに段階的に削っていくようにする
機械の剛性やエンドミルの強度に対して加工条件が厳し過ぎると、振動で加工面が粗くなったりエンドミルが折れたりといった失敗につながります。
今回はマシニングセンターに比べると、剛性の低い自作の CNC フライスを使うので、何段階かに分けて少しずつ削るように修正します。
ブラウザから [2D 輪郭] を右クリックして編集に入り、[パス] タブの [複数深さ] にチェックを入れます。これで [最大粗取り切り込みピッチ] の値ずつ切り込んでいくようになります。
画面のように 2.1 とすると、4.2mm の材料を 2.1mm ずつ二周して削るようになります。実際の加工では振動を抑えるために 4 周して削るように設定をしました。
切削送り速度を調整する
[工具] タブの送りと速度の項目で各種速度の設定を行うことができます。
切削送り速度は工具設定と紐づいているため、エンドミルを選択した時点でエンドミルに設定された速度が自動的に適用されています。手動で値を調整する場合は、ここで入力します。
外側の輪郭を削る「2D 輪郭 2」の方も同様の調整を行い、シミュレーションで挙動を確認するようにしておきましょう。
■ ポスト処理で工作機のNCデータを出力する
最後に工作機械を動かすプログラムのデータ(G コード)として出力します。
[ポスト処理] コマンドを実行し、使用するマシンに合ったポストを [ライブラリから選択] から選びます。ポストを追加する方法は、前回の記事で説明しています。
私の場合は RepRap ファームウェアで制御する自作 CNC を使うので RepRap を使用します。
画面下部の [ポスト] ボタンを押すと加工用のデータが保存され、自動的にコードエディタで表示されます。初めてポスト処理を行う場合はコードエディタのインストール画面が立ち上がる場合があります。
ポストは、関西弁で動くマシンには関西弁でデータを出力するようなイメージです。機械を動かす G コードの記述は大部分が共通ですが、工作機械のメーカーや機種ごとに若干の差異があります。加工の初めや終わり、工具の自動交換などは機械ごとに異なるのでそれぞれに合ったフォーマットでの記述の仕方を指示しているのがポストになります。
■ CNC フライスでの実加工
Fusion 内での操作はポスト処理までです。ここからは実際に CNC フライスで作った加工データを実行する手順を紹介します。制御系ごとに操作画面が異なりますが、作業内容自体は共通ですので参考にしていただければと思います。
加工データのアップロード
Fusion で最終的に出力したデータは、多くの場合 PC 内に〇〇〇.nc というファイル形式で保存されます。ポストによっては拡張子が変わる場合があります。
このデータを USB メモリ、イーサネット通信、Wi-Fi 通信、SD カードなどで工作機械に移します。一部の卓上 CNC マシンではマシンの内にデータを保存する機能がなく、加工中 PC からデータを送り続けるタイプのものもあります。
私の使っている RepRap ファームウェアでは接続した PC 画面上から G コード ファイルをアップロードします。
加工原点合わせと実行
最初に Fusion で行ったワーク座標系 (WCS) 設定と一致するように材料を固定し、工具の先端中心が設定したワーク座標系の原点と一致するようにします。
現在の位置をワーク原点に設定するボタンを押してワーク原点を登録します。原点を登録するボタンがない場合は、G10 など手動でコードを送信して、現在位置でワーク座標が X, Y, Z = 0, 0, 0 になるように設定します。
準備が完了したら先ほどアップロードした NC データを実行します。今回のデータは 1 個約 9 分で加工が完了しました。
タブの切り残しや、両面テープで固定した箇所に 0.1mm 程度の薄皮が残っているのでカッターやヤスリで除去し、軽くバリを取って、オイルを塗ります。
完成です。
一度加工データを作ってしまえば、同じものを量産することができるのもデジタルの強みです。
加工のショートの動画はこちら。
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