データ、AI、コンバージェンスがもたらす建築・建設業界のパラダイム シフト
近年、建築・エンジニアリング・建設 (AEC) 業界で大きな注目を集めているのが、デジタル トランスフォーメーション (DX) の進展と人工知能 (AI) の実践的な活用です。これまでのデジタル化が、手描き図面の CAD 化や個々の作業の自動化による生産性向上を中心としていたのに対し、現在では、生成されたデータを有機的につなぎ、組織の重要な資産として活用し、さらに AI を日々の業務を支える重要なパートナーとして取り入れる段階へと進化しています。
こうした中、2026 年 7 月 15 日 (水) にソウルで開催された Autodesk Design & Make Summit Korea 2026 では、韓国内外の AEC テクノロジーの動向と、デジタル コンストラクションの今後の方向性が紹介されました。オートデスクが掲げた 3 つの主要テーマである「データ」「AI」「コンバージェンス」は、単なる技術的なコンセプトではなく、すでに韓国の大手建設会社や設計事務所の日々の業務に深く取り入れられています。
今回、韓国の建設テクノロジーをリードする GS E&C 社、Gansam Architects & Partners 社、SAMOO Architects & Engineers 社、オートデスクのセッションを通じて、各社が現場で直面した課題、それを乗り越えるために取り組んできたテクノロジー活用の歩み、そして AEC 業界が目指す次世代の業務変革について考えていきます。
3 社の事例 ― 異なる出発点から見えてきた共通点
GS E&C 社 ― CDE で「分散した情報」をつなぐ
02 GS건설 조재영 팀장의 CDE·Forma 적용 발표.JPG
発表者: GS E&C 社 デジタル建設チーム長 Jaeyoung Cho 氏
建設プロジェクトには、発注者、設計者、監理者、施工会社、協力会社など、多くの関係者が携わります。GS E&C 社の Jaeyoung Cho 氏は講演の冒頭で、「建設現場に情報が不足していることではなく、膨大な情報が分断され、メールやメッセージング アプリ、個人の PC など、さまざまな場所に散在していることが根本的な問題である」と指摘しました。情報がつながっていないため、現場では最新の承認済み図面を探したり、是正措置が完了しているか確認したりすることに、多くの時間を費やしています。
GS E&C 社は、この課題に対して Autodesk Forma (旧 Autodesk Construction Cloud) を活用した CDE (Common Data Environment: 共通データ環境) を全社的に導入し、活用範囲を拡大してきました。CDE は単なるファイルの保管場所ではありません。最新の図面、BIM、仕様書、検査写真など、承認された情報をひとつのワークフローでつなぎ、信頼できる唯一の情報源として機能します。
特に注目したいのが、実務に即した改善事例です。従来は 100 枚を超える図面をひとつのファイルにまとめていたため、一部を改訂しただけでもファイル全体を再配布する必要があり、非効率でした。そこで GS E&C 社は、図面をシート単位で管理する方法へ移行しました。AI OCR (光学文字認識) 技術を取り入れ、図面番号や図面名を自動的に認識してシートごとに分割し、個別の PDF として配布する仕組みを構築することで、現場で受け入れやすくし、導入を加速させました。
また、モバイル デバイスを活用したペーパーレスの検査プロセスにより、従来の手書き書類に頼る方法からも移行しています。現場でチェックリストをリアルタイムに作成し、図面上の位置と検査写真を関連付けることで、標準化された検査レポートを自動的に作成できるようになりました。
さらに GS E&C 社では、構築した CDE のデータを基盤として、AI を活用した仕様書レビューの自動化や、工程・数量の予測への展開も検討しています。こうした取り組みから、データをつなぐことが実務にもたらす具体的な効果が見えてきます。
Gansam Architects & Partners 社 ― データのアセット化が可能にする未来
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発表者: Gansam Architects & Partners 社 INNOVATION 部門長 Hyuk Lee 氏
建築設計事務所は従来、人の労働を中心としたビジネスであり、人材そのものが生産基盤の大部分を担っていると言っても過言ではありません。Gansam Architects & Partners 社の Hyuk Lee 氏は、こうした構造が抱える大きな課題として、時間をかけて育成した人材が退職すると、その人が持つ経験やノウハウという「資産」も一緒に失われてしまうことを指摘しました。持続的に成長するためには、個人の経験をデータとして蓄積し、組織の「知識資産」へと変えていくことが重要です。
Gansam Architects & Partners 社は、実際のプロジェクトを通じて、テクノロジーによってプロセスを短縮できる可能性を検証しました。2023 年末、人員が限られる中で短期間に進める必要があったオフィス・ホテルの改修プロジェクトにおいて、基本設計の段階で 3D モデルベースの AI レンダリング ツール Veras を導入しました。AI プロンプトと Rhino、Revit 間のシームレスな相互運用性を組み合わせることで、わずか 2 人のエンジニアが 14 時間で高品質な基本設計案を完成させました。ツールの変化によって、設計プロセスを大幅に短縮できることを示した事例です。
組織内で新しいテクノロジーの導入を進める方法も興味深いものでした。CAD ライセンスを承認制に変更し、BIM (ビルディング インフォメーション モデリング) に関するビデオを全社で共有することで、Revit の利用を自然に促しました。また、BIM マネージャーとシニア デザイナーで構成する「Team 31」も立ち上げています。基本設計 (SD) の終了時点で、施工図全体の 30% を 60% 以上の完成度で作成することを目標としており、現在では多くのプロジェクトがこの基準を達成し、設計の早い段階から図面の自動化を進めています。
さらに、クラウドベースの統合システム Content Catalog を活用し、標準化されたユニット ファミリをワンクリックで図面に配置できる環境を構築しています。また、Detail Finder を通じて、経験豊富な社員によるアドバイスやフィードバックが反映された図面を再利用できるようにしています。
メンバー同士が組織内で価値を共有する「プラットフォームとしての会社」を目指す同社の取り組みは、AEC 企業がデータや知識を組織の資産として活用していくための、ひとつの方向性を示しています。
SAMOO Architects & Engineers 社 ― DX から AX へ
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発表者: SAMOO Architects & Engineers 社 AX Team Professional Jonggeun Yoon 氏
SAMOO Architects & Engineers 社は、2016 年に BIM の本格導入を開始し、設計基準やノウハウをデジタル データとして蓄積してきました。Jonggeun Yoon 氏は同社の次のステップとして、技術部門を中心とした自動化という DX の段階から、実際に設計業務を担う人たち自身が働き方の変革を主導する AX (AI Transformation) へと進化する取り組みを紹介しました。
従来の DX では、技術部門が業務部門から課題を収集し、Revit API や自動化プログラムを開発して、トップダウンで展開していました。当初は大きな成果を上げましたが、現場からの要望が急増するにつれ、限られた技術部門のリソースだけでは対応が難しくなっていきました。そこで同社は、技術部門がすべての課題を解決するのではなく、業務部門が AI をツールとして活用し、自ら課題を見つけて解決する方向へと転換しました。
その具体的な成果のひとつが、社内で開発した画像生成 AI サービス「MIJI」です。社内の生成 AI コンテストから生まれた業務部門のアイデアに、技術部門による概念実証 (PoC)、セキュリティ ガイドライン、UI/UX の改善を組み合わせ、誰もが利用しやすい Web サービスとして社内に定着させました。
さらに、Autodesk Platform Services (APS) とクラウド コンピューティング リソースを活用した図面発行の自動化プロジェクトでは、AI を開発パートナーとして活用しました。ドキュメント作成にとどまらず、コードの作成やエラーの修正にも AI を活用することで、これまで丸 1 日かかっていた図面発行作業をわずか 30 分に短縮しました。
こうした個々の AI 活用経験を組織の資産として体系化するため、SAMOO Architects & Engineers 社は「CYPHE」と呼ばれる社内 AI オペレーティング システムのフレームワークを構築しました。安全に利用できる全社共通の標準環境を提供し、検証済みのユース ケースを蓄積するとともに、業務変革の成果を評価する仕組みを整えています。こうした取り組みを通じて、自動化技術の導入にとどまらず、組織の行動そのものを変えるという AX の価値を実現しています。
Autodesk AI が支える業務変革
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発表者: Autodesk Korea Principal Account Technical Lead Taeseung Jung 氏 / Technical Specialist Jinho Sung 氏
Autodesk Korea のセッションでは、AI によって建築・建設・製造分野の業務環境がどのように高度化していくのか、テクノロジー プロバイダの視点からグローバルな展望が示されました。Taeseung Jung 氏と Jinho Sung 氏は、AI が単純な反復作業を支援する「アシスタント」の段階から、設計のコンテキストを自ら理解し、意思決定を支援する「AI エージェント」へと進化していることを強調しました。
現在、Forma プラットフォームを中心とする Autodesk AI は、自然言語によるツールの操作、AutoCAD での QA/QC レビューの自動化、クラウドベースのコラボレーション環境などを通じて、すでにさまざまな業務を支援しています。特に、自然言語でプロンプトを入力すると、高品質なパース画像を生成するだけでなく、実際に操作・編集できる 3D 仮想空間や建築マスの情報を直接生成することもできます。こうした技術は、今後の設計環境そのものを大きく変える可能性を持っています。
Jinho Sung 氏による、製造・機械設計分野向けの Fusion のデモも印象的でした。自然言語による指示で 3D モデル内の特定のコンポーネントを一括選択して編集したり、Claude との連携によって画像や STL データからソリッド モデルを作成し、履歴を生成したりするプロセスが紹介されました。AI が設計者とやり取りしながら作業を支援するパートナーとして機能する姿が、具体的に示されていました。また、AI を活用したクラウド プラットフォームによって、データを特定のハードウェアや業務用 PC に依存させないコラボレーション環境も実現しつつあります。
1 日を振り返ると、4 つの講演は異なる言葉を使いながらも、共通する方向性を示していました。GS E&C 社は「CDE と役割分担」、Gansam Architects & Partners 社は「知識の資産化とオープン ヤード」、SAMOO Architects & Engineers 社は「CYPHE とユース ケースを育てる仕組み」、Autodesk Korea は「データ交換モデルとガバナンス」です。表現は異なりますが、目指している方向は共通しています。ツールを導入することはすでに前提となり、重要なのは、データをどのように組織の資産へ変え、個人による AI の活用をどのように組織全体の資産へと発展させるかという点です。
AI がどれほど優れた選択肢を提示しても、最終的に判断するのは、その分野の専門知識を持つ人です。ツールそのものは、すでに多くの人が利用できるようになっています。これから重要になるのは、「何を求めるのか」という専門知識と、「どのように求めるのか」というプロンプトやガバナンスです。
特に、「AX とはオペレーティング モデルを設計すること」「誰かが説明責任を負わなければならない」という言葉は、数々の印象的な AI のデモの中でも、特に心に残りました。
まとめ: 「テクノロジーの民主化」がもたらす AEC 業界の未来
世宗がハングルを創製した根本的な目的は「知識の民主化」にありました。一部の支配階級だけでなく、誰もが文字を容易に読み書きできるようにすることで、知識への障壁を取り除くという考え方です。Autodesk Design & Make Summit Korea 2026 で紹介された韓国の主要 AEC 企業による技術革新の歩みを通じて、私はこれと重なる「テクノロジーの民主化」を目の当たりにしました。
かつて、複雑な 3D データや資産化されたツールを扱えるのは、専門技術部門の一部のエクスパートやコーディング スキルを持つ人、高性能な PC を使用するコーディネーターなどに限られていました。しかし現在では、実際に業務を担う設計者や現場のシニア エンジニア、さらにはマネージャーまでが、こうしたテクノロジーを活用して自ら課題を見つけ、解決できるようになりつつあります。
BIM がデータを標準化し、DX がプロセスの自動化をもたらしたとすれば、AX は AI とクラウドを通じて、問題解決を担う人を組織のあらゆるメンバーへと広げています。個人が持つノウハウや、個別に行われてきたデータ活用の試みを、組織の正式な検証プロセスやガバナンスに取り込み、共有資産として蓄積する。そして、それらを活用して、より高品質で信頼性の高い設計を、より迅速に市場へ提供する。これこそが、AI 時代の AEC 業界がグローバルな競争力を高めていくための、ひとつの明確な方向性です。
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