CAD 標準仕様 - 自分たちで作成したものが唯一無二!

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AutoCAD ユーザおよび CAD マネージャーとして 40 年間、数社での就業経験を経て、CAD ドキュメントの作成と管理に関するさまざまなアプローチを見てきました。この記事では、CAD 管理に関する私の見解と、CAD ドキュメントにささやかな企業価値を見出した結果を紹介します。長文になってしまいますが、CAD 標準仕様の重要性が考慮されない場合に発生する問題や、企業文化に対する長期的な影響に関する考察についても記載しています。

 

過去に勤めていたある会社では、入社したばかりの頃(何年も前)は、CAD 標準仕様という概念は話題にすら上がりませんでした。多忙だったので、あらゆる図面を活用してマシンを製造し、出荷していました。CAD オペレーターとしての私の観点からすると、これは良くもあり悪くもあることでした。その組織で使用していたのは、20 年も前のマシン デザインばかりでした。古い図面を再利用する際に、図面に目を通す時間はほとんどありませんでした。

 

標準仕様が適用されていない古い図面を利用すると、元のファイルのすべての問題が再現され、さらに正確性に欠けました。ほとんどのマシンに割り当てられた予算は非常に限られていたため、新しいマシンの基本パッケージを開発できませんでした。標準形式がない古い図面を複製すると、予想以上に多くの問題が発生することがわかりました。

 

時間の許す限り一貫性を意識しながら、再利用する図面に目を通すようにしました。次のマシン グループの設計に取り組む前に、CAD 標準仕様が必要でした。高品質な設計ドキュメントを作成する標準図面パッケージには多くのメリットがあることがわかりました。AutoCAD の使用経験がほとんどまたはまったくないユーザでも、会社の図面のガイドラインに従えば(ガイドラインがまだ作成されていなくても)作業をスピードアップできるというメリットもあります。

 

上司にこのアイディアを提案しましたが、CAD オペレーターに過ぎず、新入社員でもあった私のアイディアは、真剣に受け止めてもらえませんでした。特に、プロジェクト マネージャーは、「ただの図面作成」という仕事に予算を上乗せすることに、あまり前向きではありませんでした。私は愚かな希望を抱いていたわけですが、このアイディアを進めたいと強く願っていたので、この上司のさらに上司に働きかけ、提案した計画に賛同してくれることを期待しました。

しかし、彼らは業務上のこのような細かいことには関心がなく、基本的には予算と収益にしか関心がないことがわかりました。興味があるのは、お金だけでした。

 

現実を突き付けられ、悔しくはありましたが、目の前にどのような問題があるのかがわかりました。確かにこのような経験をした CAD 管理者は私だけではありませんでした。私はいち早く CAD 標準仕様(標準図面パッケージ)を作成しようとしました。そして、会社の考え方がわかりました。上層部の支持がなければ、いくら熱心に働きかけても CAD 標準仕様の作成は、優先事項とは見なされないことに気付きました。

 

企業が成長するにつれて、業界での存在感が高まり、新製品の開発に取り掛かりました。エンジニアリング スタッフは規模が拡大するにつれて、必要なドキュメントの作成よりも必要なエンジニアリング タスクに集中するようになりました。私は入社当時からエンジニアをサポートするために、すべての CAD 作業を担っていたため、必要な図面を作成するために何が必要かを知っていました。一緒に仕事をするうちにエンジニアの意向がわかるようになり、エンジニアもあまり詳しい説明をしなくなり、変更箇所に印を付けるようになりました。

 

エンジニアと私は、全体で効率的な計画を共有するチームに発展していきました。場合によっては、エンジニアは自ら変更箇所を修正するようになりました。エンジニアは賢く、非常に機知に富んでいます。たいていどんな問題でも解決策を見出すことができます。しかし、CAD の場合、これは必ずしも良いことではありません。

 

すでに他の人が編集した図面を見直すことも多く、仕事のスタイルや質は人それぞれだということがわかりました。CAD 担当である私の仕事は、受け取った図面の品質に関係なく図面を更新することでした。できる限り、他のチームの同僚に最善策を示すように努力しました。エンジニアの中には CAD について学ぶことに興味を持っている人もいましたが、楽なことしかしないエンジニアもいました。経営陣と同じで、標準仕様について真剣に関心を持ってくれないことがわかり、失望しました。

 

忙しくなればなるほど、予算と受注した仕事の利益に注目が集まるようになりました。それにより、プロジェクトに割り当てられた時間を日常的に超過している分野がいくつかあることが浮き彫りになりました。仕事の処理状況を詳しく調べるにつれて、ドキュメントの質と一貫性が注目されるようになりました。一部の「単純な更新」に過剰な時間を要し、図面が整合性に欠けることが明らかになりました。私の仕事とそれに伴う課題について何度か説明しようとしました。多くの場合、プロジェクト マネージャーや経営陣は概して自分たちの問題に掛かりきりで、CAD について理解してもらえません。

 

CAD 標準仕様の作成が常に遅れている状況は、私より上の役職の人たちには問題とはみなされませんでした。これまでの経験から、仕事の処理方法や仕事を完了させるために現実的に必要なスケジュールに問題があることがわかりました。しかし、ドキュメントの質や標準化について話し合うときに真剣に取り上げられることはなく、何の成果もありませんでした。

 

ドキュメントが整備されていないために発生する問題は、収益や利益に影響しない限り、誰の目にも留まりません。上層部は、CAD 図面の完成にかかる時間を疑問視し始めました。この件は、私の上司に持ち込まれ、私はこの問題について問い詰められました。問題のある図面が多かったので、例に挙げながら時間がかかる理由を説明しました。状況を改善するための私の提案は、上司の支持を得たものの、状況を改善するにはコストがかかるため、多くの支持を得ることはありませんでした。経営陣は、ささいな先行投資で長い目で見れば利益になるという考えを受け入れられないのでしょう。

 

顧客基盤が拡大するにつれ、品質へのこだわりが優先されるようになっていきました。そこで、取り上げられたことのひとつが CAD マニュアルでした。以前は、プロジェクト マネージャーが予算をまとめるときに、ドキュメントの作成と質について真剣に検討することはありませんでした。

 

私は多くのプロジェクト マネージャーや経営陣に、一般的な図面とドキュメントの標準仕様のメリットについて訴えました。この図面とドキュメントの質に関する例えを挙げて、企業ブランドの宣伝や製品設計を推進する際に、顧客により高額な製品を販売する可能性を秘めた価値のあるものだと説明しました。顧客から得る仕事量の見積もりは、常に利益に左右されてきたため、数パーセントの利益を失っても新規の仕事を受注する可能性についてはまったく関心がありませんでした。

 

同じような製品を製造する会社が増えると、経営陣は値引きを始めました。変化する環境の中で、既存の顧客と潜在的な顧客が認識する企業ブランドとイメージを精査する一方で、あらゆる手段を講じる必要があります。製品開発におけるすべての段階を見直すにつれて、ドキュメントが注目を浴びるようになりました。経営陣は、実際にドキュメントの作成にかかる時間に目を向けるようになりました。

 

上層部が製品設計の合理化に関心を寄せ始めたことが、変化のきっかけになりました。ドキュメントの標準仕様の作成を目的に、CAD 関連の仕事に従事する従業員から成る中核チームの結成が計画されました。

 

会社は既存の手続きや書類の見直しを始めました。計画がまとめられ、変更が加えられ、実行に移されました。CAD に携わる従業員が支持する標準仕様を導入することにより、ドキュメントの質と形式の一貫性の改善が見られるようになりました。どのような標準仕様でも常に改善していく必要がありますが、少なくともその意欲によって、ようやく関心を引くようになりました。

 

CAD の仕事を製品として考えなければ、経営陣は企業標準の作成に投資しません。経営陣は明快で正確なドキュメントの例を見せられると、たいていは自分たちのプロセスの弱点に気付き、問題の解決を始めます。

 


本記事は、2022 年 6 月 8 日に英語版 Community Blog に掲載された原稿を翻訳したものです。