1. 歯車諸元
作成する歯車の仕様は以下の通りです。歯数は 60 で設計します。
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注意点: 内歯車では、歯先径が内径、歯底径が外径となります。
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同じ歯数、同じ圧力角を持つ外歯車と内歯車は、基礎円径が一致するため、同じインボリュート曲線を共有します。
| 記号 | 計算式 | 外歯車 | 内歯車 | |
| 歯数 | z | - | 60 | 60 |
| モジュール | m | - | 1 | 1 |
| 圧力角 (deg) | α | - | 20 | 20 |
| 歯末のたけ | ha | 1.0m | 1.0 | 1.0 |
| 歯元のたけ | hf | 1.25m | 1.25 | 1.25 |
| 基準円径 | D | m×z | 60 | 60 |
| 基礎円径 | Db | D×cosα | 56.38154 | 56.38154 |
| 歯先円径 | Da |
外: D+2ha 内: D-2ha |
62 | 58 |
| 歯底円径 | Df |
外: D-2hf 内: D+2hf |
57.5 | 62.5 |
確認事項:
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内歯車では「基礎円径 < 歯先円径」を満たす必要があります。歯数が少ない場合(例: 圧力角 20 度の標準歯車で歯数 34 以下)、基礎円径が歯先円径を超え、所定の歯形が成立しなくなります。
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外歯車の歯先径(62)と内歯車の歯底径(62.5)の間に半径 0.25 のクリアランスが確保されています。同様に、外歯車の歯底径(57.5)と内歯車の歯先径(58)にも半径 0.25 のクリアランスが確保されています。
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2. インボリュート曲線の作成
インボリュート曲線の座標を数式から算出します。
- インボリュート曲線の一般式(m: モジュール、z: 歯数、α: 圧力角、Db: 基礎円径)
x=Db/2×(sinθ - θ×cosθ)
y=Db/2×(cosθ + θ×sinθ)
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計算範囲は以下の通りです:
外歯車: r ≤ Da/2(r = √(x² + y²))
内歯車: r ≤ Df/2
- Excel で作成した計算シートを添付しましたので、ご活用ください。
このシートでは、歯形の中心が Y 軸に一致するよう角度補正 φ を適用しています。補正後の式は以下の通りです:
x=Db/2×(sin(θ-φ) - θ×cosθ)
y=Db/2×(cos(θ-φ) + θ×sinθ)
φ=PI/(2z) + (tanα - α)
- Excel シートから xyz の 3 列を抽出して、CSV 形式で保存します。
- Fusion でアドイン "importSplineCSV" を使用し、保存した CSV ファイルをスプラインに変換します。
- 作成したスプラインを Y 軸対称にミラーコピーすることで、歯の両側面を形成します。
- 歯先円と基礎円を描き、歯形プロファイルを完成させます。このプロファイルは内歯車の隙間部分に対応します。
3. 内歯車作成
内歯車のベースとなるリングを作成し、歯形を切り取って、歯数をコピーします。
- 以下の仕様でリングを、[作成]、[押し出し] で作成します。
- 外径 (Do): 歯底径+リム厚(ここではリム厚=3m (モジュール))
∴Do=Df+2×3m=62.5+6=68.5 - 内径(Di): 歯先径 Da=58
- 厚さ(t): 歯厚=10
- 外径 (Do): 歯底径+リム厚(ここではリム厚=3m (モジュール))
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作成したリングから、作成した歯形プロファイルを [押し出し] で切り取ります。
- [修正]、[フィレット] で、歯底面と両側のインボリュート面の間に、半径 0.2 のフィレットを 2 か所追加します。
- [作成]、[パターン]、[円形状パターン] をクリックし、[オブジェクト] を「面」として、インボリュート面(2 か所)、フィレット面(2 か所)、歯先円(1 か所)を選択し、[数量] を 60 でコピーします。
- これで内歯車が完成します。
4. かみ合いの確認
同歯数の外歯車を作成して、かみ合いを確認します。Fusion のアドイン "SpurGear" を起動し、以下の諸元を入力します。
| Pressure Angle | 20 |
| Module | 1 |
| Number of Teeth | 60 |
| Backlash | 0 |
| Root Fillet Radius | 0.1 |
| Gear Thickness | 10 |
- 計算式から作成した内歯車と、アドインから作成した外歯車は、正確に噛み合っていますか。
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インボリュート曲線が一致していれば、計算は正確です。外歯車のインボリュート歯面は「凸面」、内歯車のインボリュート歯面は「凹面」となり、凸面 × 凹面のかみ合いです。このかみ合いは、凸面 × 凸面(外歯車同士のかみ合い)に比べ接触応力が低く、歯車の寿命に有利です
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確認ポイント: 前述のように歯先と歯元の間に隙間(頂隙、クリアランス)が存在します。この隙間は、歯車がスムーズに回転するために必要です。
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注意: 同じ歯数の外歯車を単純に打ち抜いた形状では、頂隙が確保されないため正しい内歯車になりません。打ち抜き用の外歯車は、「歯末のたけ」を 1.25m に設定する必要があります。
- Fusion App Store で公開されている、歯車作成に関連するアドインの中には、単純に外歯車を打ち抜いた形状(つまり頂隙がない)や、インボリュート面が「凸面」の内歯車を生成する場合があります。利用する際は仕様をよく確認してください。
次に "SpurGear" で歯数だけを 24 に変更(他は同一)して、新しい歯車を作成します。
- 作成した歯車の中心位置を、Y軸方向に 18mm 移動して、正しいかみ合い位置にセットします。
∵中心距離a = (60-24)/2=18
- 確認事項: 上右図に示す、内歯車の歯先と、外歯車の歯元が干渉していないか確認します。これを「インボリュート干渉」といいます。内歯車には他に「トロコイド干渉」「トリミング干渉」の確認が必要です。
- インボリュート干渉、トロコイド干渉の計算が可能な Excel シート「内歯車成立条件.xlsx」を添付しましたので、参考としてご利用ください(標準歯車のみで、転位には非対応)。
5. インボリュート歯形を生成する別の方法
『Fusion - 日本語フォーラム』に投稿された以下のツール 2 本も利用できます。(いずれも筆者投稿)
- 今回は、インボリュート曲線の生成に「Excel 計算シート」+「importSplineCSV」スクリプトを使いましたが、以下の投稿先にあるアドイン「SketchPointPlus」を使うことも可能です。数式欄に、今回のインボリュート計算式を入れて範囲設定すると、Fusion のスケッチにダイレクトに作図します。
- また、インボリュート歯車の生成に "SpurGear" を使いましたが、以下の投稿先にある "ParumSpurGear" を使うことも可能です。歯車モデル作成後も、パラメータファイルを修正して歯数の変更が可能なので、各種の検討が可能です。
まとめ
本記事では以下の内容について解説しました:
- Excel によるインボリュート座標計算シートの紹介
- Fusion でインボリュート座標データから内歯車モデルの作成方法
これにて「インボリュート歯車の理解と正確なモデルの作成法(1~4)」シリーズは終了です。最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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