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Autodesk Fusion:インボリュート歯車の理解と正確なモデルの作成法(第 4 回目)

fusion_gear_4_cover.jpg

1. 歯車諸元

作成する歯車の仕様は以下の通りです。歯数は 60 で設計します。

  • 注意点: 内歯車では、歯先径が内径、歯底径が外径となります。
  • 同じ歯数、同じ圧力角を持つ外歯車と内歯車は、基礎円径が一致するため、同じインボリュート曲線を共有します。
表. 歯車諸元
  記号 計算式 外歯車 内歯車
歯数 z - 60 60
モジュール  m - 1 1
圧力角 (deg) α - 20 20
歯末のたけ  ha 1.0m 1.0 1.0
歯元のたけ  hf 1.25m 1.25 1.25
基準円径 D m×z 60 60
基礎円径   Db D×cosα 56.38154 56.38154
歯先円径 Da

外: D+2ha 

内: D-2ha

62  58
歯底円径 Df

外: D-2hf 

内: D+2hf

57.5 62.5

 

確認事項:
内歯車では「基礎円径 < 歯先円径」を満たす必要があります。歯数が少ない場合(例: 圧力角 20 度の標準歯車で歯数 34 以下)、基礎円径が歯先円径を超え、所定の歯形が成立しなくなります。
外歯車の歯先径(62)と内歯車の歯底径(62.5)の間に半径 0.25 のクリアランスが確保されています。同様に、外歯車の歯底径(57.5)と内歯車の歯先径(58)にも半径 0.25 のクリアランスが確保されています。

 

gear_dimension.png

 

 

 

 

2. インボリュート曲線の作成

インボリュート曲線の座標を数式から算出します。

  • インボリュート曲線の一般式(m: モジュール、z: 歯数、α: 圧力角、Db: 基礎円径)
x=Db/2×(sinθ - θ×cosθ)
y=Db/2×(cosθ + θ×sinθ)
  • 計算範囲は以下の通りです:
外歯車: r ≤ Da/2(r = √(x² + y²))
内歯車: r ≤ Df/2
  • Excel で作成した計算シートを添付しましたので、ご活用ください。
    このシートでは、歯形の中心が Y 軸に一致するよう角度補正 φ を適用しています。補正後の式は以下の通りです:
x=Db/2×(sin(θ-φ) - θ×cosθ)
y=Db/2×(cos(θ-φ) + θ×sinθ)
φ=PI/(2z) + (tanα - α)

 

  • Excel シートから xyz の 3 列を抽出して、CSV 形式で保存します。

excel_sheat.png

 

  • Fusion でアドイン "importSplineCSV" を使用し、保存した CSV ファイルをスプラインに変換します。
  • 作成したスプラインを Y 軸対称にミラーコピーすることで、歯の両側面を形成します。
  • 歯先円と基礎円を描き、歯形プロファイルを完成させます。このプロファイルは内歯車の隙間部分に対応します。

 

gear_prifile.png

 

 

 3. 内歯車作成

内歯車のベースとなるリングを作成し、歯形を切り取って、歯数をコピーします。

  • 以下の仕様でリングを、[作成][押し出し] で作成します。
    • 外径 (Do): 歯底径+リム厚(ここではリム厚=3m (モジュール))
      ∴Do=Df+2×3m=62.5+6=68.5
    • 内径(Di): 歯先径 Da=58
    • 厚さ(t): 歯厚=10

  • 作成したリングから、作成した歯形プロファイルを [押し出し] で切り取ります。

 

extrude_cut.png

 
  • [修正]、[フィレット] で、歯底面と両側のインボリュート面の間に、半径 0.2 のフィレットを 2 か所追加します。

fillet.png

 

  • [作成][パターン][円形状パターン] をクリックし、[オブジェクト] を「面」として、インボリュート面(2 か所)、フィレット面(2 か所)、歯先円(1 か所)を選択し、[数量] を 60 でコピーします。


circle_pattern_copy.png

 

  • これで内歯車が完成します。

internal_gear.png

 

 

4. かみ合いの確認

同歯数の外歯車を作成して、かみ合いを確認します。Fusion のアドイン "SpurGear" を起動し、以下の諸元を入力します。

 

Pressure Angle 20
Module 1
Number of Teeth 60
Backlash 0
Root Fillet Radius 0.1
Gear Thickness 10

 

internal_gear_meshing.png

 

 

 

 

  1. 計算式から作成した内歯車と、アドインから作成した外歯車は、正確に噛み合っていますか。

  2. インボリュート曲線が一致していれば、計算は正確です。外歯車のインボリュート歯面は「凸面」、内歯車のインボリュート歯面は「凹面」となり、凸面 × 凹面のかみ合いです。このかみ合いは、凸面 × 凸面(外歯車同士のかみ合い)に比べ接触応力が低く、歯車の寿命に有利です

  3. 確認ポイント: 前述のように歯先と歯元の間に隙間(頂隙、クリアランス)が存在します。この隙間は、歯車がスムーズに回転するために必要です。

  4. 注意: 同じ歯数の外歯車を単純に打ち抜いた形状では、頂隙が確保されないため正しい内歯車になりません。打ち抜き用の外歯車は、「歯末のたけ」を 1.25m に設定する必要があります。

  5. Fusion App Store で公開されている、歯車作成に関連するアドインの中には、単純に外歯車を打ち抜いた形状(つまり頂隙がない)や、インボリュート面が「凸面」の内歯車を生成する場合があります。利用する際は仕様をよく確認してください。

 

次に "SpurGear" で歯数だけを 24 に変更(他は同一)して、新しい歯車を作成します。

  • 作成した歯車の中心位置を、Y軸方向に 18mm 移動して、正しいかみ合い位置にセットします。
    ∵中心距離a = (60-24)/2=18

z24Gear.png

  • 確認事項: 上右図に示す、内歯車の歯先と、外歯車の歯元が干渉していないか確認します。これを「インボリュート干渉」といいます。内歯車には他に「トロコイド干渉」「トリミング干渉」の確認が必要です。
  • インボリュート干渉、トロコイド干渉の計算が可能な Excel シート「内歯車成立条件.xlsx」を添付しましたので、参考としてご利用ください(標準歯車のみで、転位には非対応)。

 

5. インボリュート歯形を生成する別の方法

『Fusion - 日本語フォーラム』に投稿された以下のツール 2 本も利用できます。(いずれも筆者投稿)

 

  1.  今回は、インボリュート曲線の生成に「Excel 計算シート」+「importSplineCSV」スクリプトを使いましたが、以下の投稿先にあるアドイン「SketchPointPlus」を使うことも可能です。数式欄に、今回のインボリュート計算式を入れて範囲設定すると、Fusion のスケッチにダイレクトに作図します。
  2. また、インボリュート歯車の生成に "SpurGear" を使いましたが、以下の投稿先にある "ParumSpurGear" を使うことも可能です。歯車モデル作成後も、パラメータファイルを修正して歯数の変更が可能なので、各種の検討が可能です。
     

 

まとめ

本記事では以下の内容について解説しました:

  • Excel によるインボリュート座標計算シートの紹介  
  • Fusion でインボリュート座標データから内歯車モデルの作成方法  

 

これにて「インボリュート歯車の理解と正確なモデルの作成法(1~4)」シリーズは終了です。最後までご覧いただき、ありがとうございました。